消費税のインボイス制度がもたらす脅威

Posted by on 2016年1月31日

中野区の税理士(飲食店に強い)の三堀貴信です。今週の税務会計ニュース。「消費税のインボイス制度がもたらす脅威」のついて。

本日は、消費税のインボイス方式について。この問題は、TVや新聞やマスコミが取り上げないので、我々国民が知る機会がないので、少し考えてみたいと思います。

このインボイス制度、事業者にとっても、課税当局にとっても、そして我々消費者にとっても、実はとても大きな問題に発展する可能性があります。

まだ、法案が通ったわけでもないし、その具体的な制度も不明確であることを前提で、現在伝え聞く範囲内で考えたいと思います。

まず、インボイス制度とはなにかについて。現在、事業者は、取引先から課税仕入を行うと仕入税額控除ができます。簡易課税だとか色々ありますが、すべてとっぱらってあえて、簡単に説明致しますと、商品を仕入れると、納める消費税からその商品にかかる消費税額を控除することができるのです。

たとえば、事業者が商品を1,080円で売り上げます。このまま消費税を計算すると、納付すべき消費税は、1,080円×108分の8で80円です。そこで、事業者が、540円の商品を仕入れます。そうすると540円×108分の8で40円とでてきます。この40円がいわゆる消費税の仕入税額控除ということになります。すると事業者は納付すべき消費税80円からこの仕入税額控除40円を控除した40円を納付すればよいということになります。

いままでは単一税率(8%のみ)でしたので、問題なかったのですが、今回の税制改正で盛り込まれた軽減税率では税率が複数になります。8%やら10%が混在することになります。
すると今までの領収書などだけでは対応しきれないこととなります(現行の領収書を見ただけではその商品が8%なのか10%なのかわからない等)。

そこで出てくるのがインボイス。インボイスとは簡単にいえば、税額計算明細表のようなもので、その商品に係る税額やら税率やらがしっかりと明記されているものになります。
つまり、その商品が8%の商品ならインボイスに8%、税額〇〇円と記載されることになります。

軽減税率により導入されるインボイスは、このように、インボイスに記載された税額しか控除してはだめですよというものになります。もし、インボイスがなければ、消費税が8%のものを仕入れたのに、10%のものを仕入れたとして税金をごまかすことができるとか、そんな理由からだと思われます。

長くなりましたが(汗)ここからが本題。

このインボイス。免税事業者は発行できないこととなっております。
財務省HPでも「免税事業者は「インボイス」を発行できない。したがって、免税事業者からの仕入れについて仕入税額控除ができない」とあります。参照財務省HP

免税事業者とは、我が国ではかなりの数に上るかと思うのですが、いろいろ条件がありますが、単純にいうと、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は消費税が免除されるという制度です。これは、中小零細企業の経済事情を考慮した素晴らしい制度だと思います。

ここで問題となるのは、上記の、免税事業者はインボイスを発行できないから、免税事業者からの仕入については仕入税額控除ができないというところ。ちょっと複雑な話なのですが、たとえば、事業者Aがいます。この人は免税事業者です。そして取引先Bさんがいます。いままでは、BさんからしたらAさんが免税事業者であろうが、課税事業者であろうが関係なかったし、そもそも知りようがなかったのです。

先述の例でいうならば、Bさんが商品を1,080円で売り上げます。これで80円の納付すべき税金が生じます。その後、免税事業者Aさんから、商品540円を仕入れます。今までだったら、この商品に入っている消費税40円を控除して40円の納付で済んだところ、このインボイスが導入されれば、免税事業者からの仕入はインボイスがないから控除できないことになります。つまり、この場合は、Bさんは消費税80円を納付しなければならないことになります。

こうするとどういう事態が生じるかというと、Bさんからしたら、免税事業者と取引するとインボイスがないから40円控除できない、だからほかの課税事業者(インボイスを発行できる人)と取引しようかなって考えるかもしれません。また、Aさんに、あなたと取引すると消費税40円損するから、540円から消費税分の40円引いた500円しか払わないよ(実質的に40円をAさんが負担する形)と言ってくるかもしれません。

いずれにせよ、免税事業者Aさんからしたら、取引相手から排除されたら大変だということで、本来は免税事業者であるにも関わらず、あえて課税事業者を選択することになるかもしれません。(課税事業者を選択すればインボイスは発行可能)
ただ、インボイスを発行したいがために、課税事業者を選択するというのもなんだかなって感じですよね。

軽減税率及びインボイス制度の導入に伴い、免税事業者は、半ば強制的に課税事業者を選択しなければならない状況になってしまわないかと危惧します。これは実質的な増税といえるのではないでしょうか。実に分かりにくく巧妙な増税。とても常人では考え付きません。( `ー´)ノ

免税制度は、法律に従った正当な制度です。このように、半ば強制的に課税事業者を選択させるようなことになるならば、消費税の免税事業者の制度の規定が有形無実化することになります。

ことは個人事業者の方だけの問題ではないですよ。我々一般消費者にも関係してきます。たとえば、先の例でいえば、免税事業者のAさんは課税事業者を選択したのだから、みんなに売る商品に当然消費税分を転嫁することになります。Aさんは今まで100円で我々に売ってくれていた商品を108円で売らなければならなことになります。事務処理も煩雑化することになるから、その分原価も上昇し、販売価額も上昇するかもしれません。

このように軽減税率やインボイスの導入は、様々に影響してきます。
事務処理の煩雑化や課税事業者を選択したことによる税の転嫁(商品への上乗せ)という形で我々消費者に返ってきます。

税務大学校の研究部教育官の望月俊浩先生も、インボイスの問題点について、

「免税事業者からの仕入れが控除できないために免税事業者が取引から排除されるおそれがあるという問題点がある。特に免税事業者の取引排除の問題はインボイス方式の大きな問題点である。・・・(後略)」

と述べておられます。
この点は同氏の、「消費税の複数税率化を巡る諸問題」に詳しい。リンク「消費税の複数税率化を巡る諸問題」※同氏はこのほかにも様々な問題点を提起されており、まさに至言という指摘もあり、ご一読いただければと存じます。

さらに、同氏はインボイス方式と現行の請求書等保存方式に触れ、

「現行の請求書等保存方式では複数税率化に対応できないのであろうか。インボイス方式のメリットは前段階に課されていた税額を正確に把握することができるという点にある。この点に着目すれば、請求書等保存方式であっても請求書等の記載事項に税額又は税率を追加するといった改正を行えば、軽減税率の採用にも対応できるのではないだろうか。」

と述べておられる。私も請求書に記載事項をちょっと追加すればインボイスとなんら差がないのだから問題なかろうと考えます。これが駄目ならただ単に免税事業者の課税事業者選択による増税が目的なんじゃないのって思ってしまいます。

それにしても、なんでマスコミはこういう大きな問題点を報道しないのでしょうか?マスコミもこういったインボイス制度が免税事業者や消費者にもたらす影響をもっとクローズアップすべきです。(それこそ憲法の知る権利の冒涜ではないでしょうか)

冒頭で申し上げましたとおり、以上のことは、まだ、決定事項ではありません。税制改正大綱に載っているだけで、これから議論されるものもであり、調整もあるかもしれません。個人的には軽減税率(据え置き税率)やインボイスなどといった複雑怪奇な制度は反対です。誰のためにもなりません。まだ間に合います!!みんなで声を大にして軽減税率(据え置き税率)及びインボイス導入に反対の声を上げれば、政府も考え直してくれる・・・かも?

みなさんはどのようにお考えでしょうか。(^◇^)


※免責事項
当事務所の「税務会計ニュース」及び「お役立ち情報」等で提供している各種ニュース及び各種情報等につきましては、お客さまに不測の損害・不利益などが発生しないよう適切に努力し、最新かつ正確な情報を掲載するよう注意を払っておりますが、その内容の完全性、正確性、有用性などについて保証をするものではありません。
したがいまして当事務所は、お客さまが当事務所のホームページの税務会計ニュース及びお役立ち情報等に基づいて起こされた行動等によって生じた損害・不利益などに対していかなる責任も一切負いませんことを予めご了承ください。
※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。
※本情報の転載および複製等を禁じます。

免責事項

当ウェブサイトを利用される方は、下記の免責事項を必ずお読みください。
当ウェブサイトのコンテンツを利用された場合、下記の各事項に同意されたものとみなさせていただきます。

  • 当事務所は、コンテンツ(第三者から提供された情報も含む)の正確性・妥当性等につきましては細心の注意を払っておりますが、その保証をするものではありません。 また、本サイトのコンテンツを構成する各情報は、掲載時点においての情報であり、その最新性を保証するものではありません。
  • 当事務所は、本ウェブサイトにおいて、その利用者に対し法的アドバイス等を提供するものではありません。 従って、当事務所は本ウェブサイトまたは本ウェブサイト掲載の情報の利用によって利用者等に何らかの損害(直接的なものであると間接的なものであるとを問いません)が発生したとしても、かかる損害については一切の責任を負いません。
  • ウェブサイト上のコンテンツやURL等は予告なしに変更または削除されることがあります。
  • 本免責事項は予告なしに変更されることがあります。本免責事項が変更された場合、変更後の免責事項に従っていただきます。
このエントリーをはてなブックマークに追加